231028_リナボバルディ

ブラジルで活躍した建築家リナボバルディ(1914-1992)によるサンパウロ美術館(1947)は、ピロティ形式にして展示空間をガツンと浮かし、地上部分にパブリックスペースをがつくられている。建設当時、貴族階級のみが利用する施設だった美術館の中に、誰でも入れるパブリックスペースを実現したのは、彼女が初めてだった。
美術館は、パウリスタ大通りという人口1200万人以上を抱えるサンパウロ市の中で最も象徴的な大通りにある。自分が行くことのできた2019年は、ブラジルは失業率が13%を超えていた。当然、パウリスタ通りにも数多くの路上生活者がいる。サンパウロ美術館は、ピロティ柱脚周りが人口の水辺空間になっているのだが、そこで家を失った人は体を洗っているのだった。その風景は、パウリスタ大通りの中に違和感なく溶け込んでいた。美術館の展示物を見にきた人やショッピングで疲れた人も、ピロティ下で休んだりしている。パブリックスペースってこういうもんだよなと思った。

道路や公園などのパブリックスペースをより豊かにする方法を探るために、社会実験と名を打って、すぐに撤去できる芝生やベンチ、それに合わせて飲食店を呼び、賑わいをつくる動きが最近特に活発になってきている。サンパウロ美術館の風景を思い出すたびに、パブリックスペースの別の未来も並行して考える必要がありそうだと思ってしまう。爽やかっぽいスペースと飲食で、山に行く予定もないのに山に関するブランドのジャケットを羽織り、ニット帽をかぶった人ばかりを寄せ集める場づくり一辺倒では、もはやジェントリフィケーションだ。ついつい自分もそれに吊られてしまうし、それほど禁欲的に生きられるわけでもないし、その様な場づくりも街に住む楽しさの一つだと思う。それと並行して、共存できる別の未来も考える必要があると思う。パブリックスペースには、人が集まることと、誰でもいていい空気感がある事の両輪が必要だ。

綺麗にしたり新たに付け加えるのではなく、既にあるものをより豊かに使うための工夫をしたり、禁止されている、あるいはできなくなっていることの制約を引き下げるようなことをしたい。お金を使う必要もないけれども、何かやることはあり、何もやっていなくてもいていいようなパブリックスペースづくりをしていきたい。